主婦の休業損害(1)基礎収入

特に交通事故の場合で主婦(家事従事者)の方が被害に遭われた場合、家事労働の休業損害の請求が可能であることは実務上定着しています。計算方法もほぼ確立しているのですが、細かいところではなおはっきりしていないところが多いのが現状です。ここ数年の裁判例を調査してある程度の傾向をつかもうとしたことがありますので、自分なりの分析を書いてみようと思います。

まず、家事には給料が支払われるわけではないので、家事に給与が発生するとすればいくらになるかという数字を設定しなければなりません。実務上は賃金センサスの女性全年齢平均賃金を日割り(÷365)して用います。家事に従事する人が男性の場合も変わりません。議論はありますが請求段階でこれを採用している例が圧倒的多数です。

女性全年齢平均賃金の最新のものはe-stat(政府統計の総合窓口)内の「賃金構造基本統計調査」のページから調べることができます。コロナの時期を除いて毎年少しずつ上昇しており、令和5年は3,996,500円(日額10,949円)となっています。働き方改革の影響なのか、昔より上昇幅は上がっているように感じられます。数年前までは380万円前後くらいの感覚でした。

高齢者の場合には全年齢ではなく、年齢ごとの平均賃金を用いて算定する例もあります。金額としては下がりますが、理由としては子どもがいなくなって負担が軽くなっているからなどと説明されます。ただ最近は子どものいない家庭も多いですし、子だくさんの家庭は逆に高額になるかというとそうでもありませんので、あまりこの理由づけは成り立たない気もします。また、他に主たる家事従事者がいる場合には減額されることがあります。

賃金センサスは原則として事故年のものを用います。ただその年のものが出てくるのは翌年の4月ころになりますので、請求のタイミングによっては1年前のものを利用することもあります。

治療期間が複数年にまたがっている場合、それぞれの年の賃金センサスを用いるべきでしょうか。そのように細かく計算して請求した例もありますが、裁判所は最初から最後まで事故年の賃金センサスで計算しています。理由は不明ですが、計算の煩雑さを嫌ってのことかもしれません。

次回に続きます。