区分所有法の改正(1)
マンションの基礎法といえる区分所有法ですが、先日大きな改正が成立しました。
施行日は令和8年4月1日(改正法附則1条)となります。施行日時点で新区分所有法に抵触する管理規約は無効となる(同2条3項)ので、注意が必要です。
改正点で比較的重要な部分を何回かに分けて解説します。
①国内管理人(新法6条の2)
区分所有者が国内に住所を有しないなどの場合、専有部分及び共用部分の管理のために管理人を選任できることになりました。法律上は「できる」とされておりあくまで任意ですが、規約で義務とすることは可能です。
国内管理人が選任された場合、総会招集通知は国内管理人宛に発することができ、国内管理人が総会で議決権を行使することもできます。なお、管理費滞納などの場合に訴状の送達先を国内管理人にすることはできないとされています。
②共用部分の変更(新法17条)
共用部分の形状又は効用の著しい変更については特別決議を要しますが、議決要件が変更となります。従前は原則として全ての区分所有者及びその議決権の4分の3以上の賛成が必要でしたが、改正法では出席者及びその議決権の4分の3以上の賛成で足りるようになりました(新法17条1項)。もっとも、この「出席者」(=分母)は区分所有者及び議決権ともに最低でも全体の過半数が必要とされています(委任状なども含みます。新法39条2項)。
加えて、改正法では必要な賛成割合(=分子)自体も規約で定めれば2分の1にすることもできます。また、規約の定めがなくとも①共用部分の設置又は保存に瑕疵があり他人の権利を侵害する場合や②バリヤフリーのため必要な場合には分子が3分の2で足りるとされています(新法17条5項)。
規約で定めを置くことにより共用部分の変更に伴う専有部分の保存行為や改良行為も可能になりました(新法17条3項)。後述の18条と同じく一般的には配管の一斉交換などを想定しているものと思われます。議決要件は変更の場合と同じですが、先行して専有部分を改良した区分所有者などとの間での衡平を図るべきとされています(新法17条4項)。
専有部分の改良行為に際し費用を誰が出すか(区分所有者の実費負担か、管理費等からか)については何らの規定もないため、その点は規約に規定が必要です。
③共用部分の管理(新法18条)
規約に定めがあれば、共用部分の管理に伴い必要となる専有部分の保存行為等は総会の普通決議で可能になりました(新法18条4項)。過半数の賛成を得れば反対者の専有部分を含めて配管の一括交換などを行うことができますが、区分所有者間での衡平を図るべきことは変更に伴う場合と同様です(新法18条5項)。
標準管理規約21条2項(単棟型、以下略。また同条コメント⑦も参照)にも似た規定がありますが、「共用部分と構造上一体となった部分の管理」とあります概念上はこれより広いと思われます。他方で総会決議が必要になっています。
④管理者の権限(新法26条2項)
従前、管理者は共用部分等(敷地、附属施設を含む)について生じた損害賠償などの請求及び金銭の受領につき区分所有者を代理することができるとされていましたが、区分所有権を売った旧区分所有者も代理することができるのか問題となっていました。新法では管理者は旧区分所有者も代理できるとした上で、管理者に対して書面等で「別段の意思表示」をした旧区分所有者は代理の対象から外れると規定しています。
もともと、外壁工事の欠陥につき一部の区分所有者が区分所有権を転売した場合、管理者は旧区分所有者を代理することができず、新区分所有者も売買契約で損害賠償請求権を承継しなかった場合には管理者は原告になれず損害賠償請求もすることができない(東京地判平成28年7月29日)という裁判例があり、これを受けての規定となります。
法改正により管理者は旧区分所有者も代理することができるようになりましたが、旧区分所有者が別段の意思表示をして代理を拒否した場合には旧区分所有者の共有持分に相当する損害賠償額を管理者が受領することはできません。修繕などで不具合が生じるため、規約や総会決議で旧区分所有者の権利行使を禁ずる旨を規定しておくことも考えられます。改正議論でもこのような方法は否定されていませんが、有効かどうかは今後の解釈に委ねられるとされています(部会資料27-2の5頁)。
⑤規約の設定、変更、廃止(新法31条)
特別決議を必要としますが、決議の分母は変更と同様の改正が加えられており(新法31条1項)、全区分所有者から「出席者」(最低でも過半数の区分所有者及び議決権は必要)に変更されます。分子は4分の3以上で変更はありません。