配偶者居住権と相続税
最近は民法の大きな改正が続いています。直近では不動産に関わる法制が改正されて来年以降の施行が予定されていますし、まだ具体的な内容は固まっていませんが、親子関係に関わる部分の改正も予定されています。
既に施行されたものでは4年ほど前に相続法制の大きな改正があり、2019年から2020年までの間に段階的に施行されています。
その中で一つの目玉だったものが「配偶者居住権」と呼ばれるもので、夫婦の一方が亡くなった際、残された方が持ち家に住み続けることを保護するために制定されました。制度ができて2年以上経ちますが、そもそも相続人間で不和があると使いづらい上に、地方だとむしろ空き家の問題の方が大きく、利用実績はあまり多くないと言われています。私も、実際の事件で利用したことは一度もないままです。
ただ、相続税負担を抑えるメリットがあると言われており、どちらかというとこちらの目的で利用されることが多いといわれています。
具体的には、不動産に配偶者居住権を設定した内容で遺産分割をすると、不動産の価値のうち「配偶者居住権分の価値」は配偶者が取得し、「不動産の価値-配偶者居住権分の価値」は所有権を取得した相続人(ここでは子ということにしておきます。)が取得することになりますから、それぞれ相続税が課税されます。しかし、配偶者が遺産を取得する分には大きな控除(法定相続分又は1.6億円の多い方まで無税)がありますので、実質的には課税負担は生じないことが多いです。
その後、配偶者が死亡して子が相続をする場合、配偶者居住権は配偶者の死亡によって消滅し相続などは生じないとされていますので、当然ながら相続税の課税はありません。結果として、不動産の所有権全部を一旦配偶者に相続させた後で子に移転させるのに比べ、子は配偶者居住権分だけ相続税の課税負担を免れることができるというわけです。
別に違法というわけではなく、課税当局もこのことは認識しているが今のところこの点を何とかしようという話は出ていないようです。ただ税務に限っていえばよくわからない結論ではあるので、いずれ修正はされるかもしれません。また、不動産価値の安い地方では結局基礎控除(3000万+600万×相続人)の中で処理できてしまうことも多く、使えるのは都市部だけの話かもしれません。